初代
1955年4月26日生まれ。四代目中村時蔵の長男。60年4月歌舞伎座『嫗山姥(こもちやまんば)』の童ほかで三代目中村梅枝を名のり初舞台。81年6月歌舞伎座『妹背山婦女庭訓』のお三輪ほかで五代目中村時蔵を襲名し名題昇進。2024年6月歌舞伎座『山姥』の山姥ほかで初代中村萬壽を襲名。
現代を代表する立女形(たておやま)の1人。古風な顔立ち、気品ある佇まいで、古典から新作、舞踊まで守備範囲は広い。亡き六代目中村歌右 衛門や七代目尾上梅幸から正統派の芸を受け継ぎ、最近は祖父・三代目 中村時蔵を彷彿させる風格が出てきた。時代物の当たり役には、五代目襲名披露でも演じた『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』 御殿のお三輪を始め、『鏡山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしき え)』の尾上、『裏表先代萩』の乳人政岡といった大役の数々があり、世話物なら『文七元結』のお兼、『魚屋宗五郎』のおはま、『暗闇の丑松』のお米など女房役で舞台を支える。女武道の『毛谷村』のお園、『絵本合邦衢(えほんがっぽうがつじ)』のうんざりお松のような悪婆物でみせる、仇っぽい色気もこの人ならでは。菊五郎劇団への客演が多く、新作『マハーバーラタ戦記』では物語の要となる汲手(くんてぃ) 姫を長男・中村梅枝とともに受け持った。二枚目もよくし、『髪結新三』の手代忠七、『義経千本桜』すし屋の弥助などは絶品。国立劇場で後進らの指導に力を尽くしている。